斜頭症に関する論文の紹介

ここでは斜頭症に関する論文を紹介いたします。

① 斜頭症の4大合併症

“Relation Between Side of Plagiocephaly, Dislocation of Hip, Scoliosis, Bat Ears, and Sternomastoid Tumours”
Archives of Disease in Childhood, 01 Apr 1971, 46(246):203-210

”A relation is described between plagiocephaly and four structural lesions in children who have two or more of these five features. The flat temple in plagiocephaly, a unilateral congenitally dislocated hip, a scoliotic convexity in a young child, and a sternomastoid tumour tend to be on the same side, and a unilateral bat ear on the opposite side. “

タイトルから分かるように、斜頭症は「股関節脱臼」「脊柱側湾症」「コウモリの耳」「胸鎖乳突筋腫」と関係が深い、というものです。

論文の発表年を見ていただくと分かりますが、これは1971年。
最近ではあまり使われない単語があるのでそこは注意が必要です。
現代では「股関節脱臼」「乳児(もしくは幼児)脊柱側湾症」「耳介変形」「筋性斜頸」となるでしょうか。

股関節脱臼は、実際は「斜頭症性股関節偏位症」でしょう。
これは日本の報告があり、「股関節肢位の外転制限側と頭部変形側との分布には最高度に有意の関連性を認 めた」「左後頭部圧平例では右外転制限例が圧倒的に多く,右 後頭部圧平例では左外転制限例が圧倒的に多 い」となっています。
「新生児の股関節肢位とその片側優位性に関する研究」北関東医学 : 30(6):(511) 511~431, 1980

「脊柱側湾症」も多く見られ、将来的に背骨が曲がってしまうというだけでなく、乳幼児期から曲がってしまうケースが少なくありません。これは現在はかなり知られている事なので、論文は割愛します。
「耳介変形」は「左右の耳の見え方が違う」とご両親が言われるケースが多いのですが、中には耳介(耳たぶ)が潰れてしまうケースも。これも良く知られているので論文は割愛。
「筋性斜頸」も多いケースです。筋性斜頸だから斜頭になりますし、斜頭だから筋性斜頸になる。ここは悪循環を生じてしまっています。これも同様に割愛。

論文ではレベルに関しての言及はされていませんでした(1971年当時、斜頭症はあまりレベルを論じていなかった)ので、正直レベル1の方は気にしなくても良いと思います。
ですが、レベル2になるとやはり股関節の動きの左右差は出始めますし、レベル3位上ですと、大なり小なり、これらの症状は出てくる。
ですから、小児科医や保健師の方々は頭の形で悩まれているご両親が受診されましたら、経過観察ではなく、適切な指導もしくは専門医への紹介をして頂きたいと切に願います。

② 斜頭症と発達遅延1

”Cognitive Outcomes and Positional Plagiocephaly”
Pediatrics 143(2):e20182373 ・ January 2019

”School-aged children with moderate to severe PPB scored lower than controls on cognitive and academic measures; associations were negligible among children with mild PPB. The findings do not necessarily imply that these associations are causal; rather, PPB may serve as a marker of developmental risk. “
「中等度から重度のPPBの学齢期の子供は、認知的および学術的尺度のコントロールよりも低いスコアを記録しました。 軽度のPPBの小児では、関連性は無視できました。調査結果は、これらの関連が因果関係であることを必ずしも意味するものではありません。むしろ、PPBは発達リスクのマーカーとして役立つかもしれません」

PPB、というのは“positional plagiocephaly and/or brachycephaly”(位置性斜頭症及び/若しくは短頭症)の事。
斜頭症は結構いろんな省略形が使われていて、論文をこれから読もうという方は混乱するかも知れません。

他に良く使われるものとして、
・positional plagiocephaly (PP) 位置性斜頭症
・plagiocephaly without synostosis (PWS) 癒合のない斜頭症
・occipital plagiocephaly (OP) 後頭斜頭症
PPは良く使われていますので最初はこれを見ると良いかも。

脱線しましたが、中等度以上の斜頭症のお子さんは、因果関係は不明だが認知関連の低下のある子が多いというものです。
一応、「因果関係であることを必ずしも意味するものではない」は常套句なので、これを以て「斜頭症と認知の低下は関係がない」という判断は間違いです(こんな主張をした方がいましたので、ここはきちんと否定しておきます)。

これが何を意味するのかというと、斜頭症の矯正は将来的に療育とセットになる可能性を示唆しています。
私の治療院は療育施設でもあるので、斜頭症で悩まれてお越しになるお子さんの簡易発達検査を斜頭症の矯正を始めた当初から全事例で実施しています。

こう言った背景がありますので、私のところに来られた赤ちゃんの中には家庭での“予防的療育指導”が入るお子さんがおりますので、予めご了承ください。

③ 斜頭症と発達遅延2

Plagiocephaly and Developmental Delay
Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics: January 2017 - Volume 38 - Issue 1 - p 67?78

“This review suggests plagiocephaly is a marker of elevated risk of developmental delays. Clinicians should closely monitor infants with plagiocephaly for this. ”
「このレビューは、斜頭症が発達遅延のリスク上昇のマーカーであることを示唆しています。このため、臨床医は斜頭症の乳児を注意深く監視する必要があります」

念のため、ですが私が問題にしている斜頭症はレベル1などの軽い斜頭症ではなくレベル3以上の中程度~重度の変形を伴った斜頭症です。
斜頭症と言われるケースの多くは軽度とされるもので、軽度であればポジショニングや改善を促すマッサージなどで軽減できていきますし、より軽いもので有ればそれこそ成長と共に改善していきます。
ただ、それはあくまで軽度のもの。
中等度?重度は自然では改善しませんし、今回の論文でも書かれているように発達遅延のリスクマーカーになってしまいます。

さて、発達遅延は初めに何から起こるのかというと、運動面に症状が出てきます。
寝返りが遅い。
座れない。
ハイハイが遅い。
そして言葉が遅い。
ここまできたら正直言うと小学生になっても尾を引いてしまいます。
それなので、「べびきゅあ」では斜頭症のお子さんが初診で来られると発達チェックを行うのです。
ご両親によるチェックをしてもらい、それが適切なチェックがされているかを確認。
場合によっては家庭療育指導を行う。
これは「べびきゅあ」が療育施設を兼ねているからこそできる事なのです。

あなたが相談した“専門家”は療育に詳しいですか?
もちろん、斜頭症に詳しいでしょうか?
当然ながら医療国家資格を所持していますか?
そうでなければ相談相手として不適切です。

④ 斜頭症の赤ちゃんと眼科系疾患

“Ophthalmologic findings in patients with nonsyndromic plagiocephaly. “
Journal of Craniofacial Surgery 14(4):529-32.

“Children with deformational plagiocephaly do not have an increased prevalence of strabismus compared with the general population but do have an increased prevalence of astigmatism, whereas children with nonsyndromic craniosynostotic plagiocephaly have an increased prevalence of strabismus and astigmatism. ”
「変形性斜頭症の小児は、一般集団と比較して斜視の有病率は増加しませんが、乱視の有病率は増加します。それに対して、非症候性頭蓋癒合症の斜頭症の小児は、斜視と乱視の有病率が共に増加します。」

ここでは紹介しませんが、実は斜頭症のお子さんは斜視になりやすいというレポートがあります。
以前、yahooブログで斜頭症のブログを書いていましたが、引越しする際に多くの記事を廃棄する事にしました。
それは、以前と今では医学的に考えられている内容が大きく変わったからです。
ですから、この論文は2003年のものなので当時はそう考えられていた、と考えると良い論文ですね。
あっ、念のため、乱視になりやすい、という考えは今も有効です。
要するに、斜頭症は眼科領域の有病率を上げるリスク因子になる、となるのです。

⑤ 斜頭症の赤ちゃんは中耳炎になりやすい

“Incidence of otitis media in children with deformational plagiocephaly.”
Journal of Craniofacial Surgery 20(5):1407-11.

Tympanogrametry showed a marked percentage of infants with deformational plagiocephaly to have eustachian tube dysfunction.
「ティンパノグラメトリーにより、変形性斜頭症の乳児において顕著な割合で耳管機能障害が認められました」

Tympanogrametryというのは鼓膜の動きを調べる検査のこと。
論文では124人中121人が異常なティンパノグラムを持っていたとなっています。
斜頭症の赤ちゃんは耳道の位置が変形により耳管が移動する事が分かっています。
この時間は中耳の排液に関係するのですが、斜頭症のお子さんは耳管がこの変形とともに移動するため、耳管の正常な排液に影響を与えていると考えられるのです。

斜頭症の赤ちゃんは中耳炎を繰り返したりなかなか良くならないケースが少なくありません。
そうならないためにも斜頭症/短頭症は早めの改善をご検討ください。

⑥ ヘルメット療法は赤ちゃんの発育を抑制するのか?

”Assessing Calvarial Vault Constriction Associated With Helmet Therapy in Deformational Plagiocephaly“
J Neurosurg Pediatr. 2018 Aug;22(2):113-119.

“These results strengthen previous research supporting helmet safety and should allow health care providers and families to choose the appropriate therapy without concern for potential negative effects on cranial growth.”

要するに、ヘルメットの安全性を支持し、医療従事者および家族はヘルメット療法が頭蓋骨の成長に対する潜在的な悪影響を懸念せずに選択する事ができると理解して、赤ちゃんにとって適切な治療法を選択できるようにすべきであるとしています。

小児科医もヘルメット療法を有害だと懸念を持っている方が少なくありません。
斜頭症のお子さんを持つご両親は、デマに惑わされず、きちんとしたエビデンスに基づいたアドバイスを得られるようにしたいものですね。

⑦ なぜ両親の感覚と医療機関の診断結果にズレが生じるのか?

”Assessment of facial and cranial symmetry in infants with deformational plagiocephaly undergoing molding helmet therapy“
Journal of Cranio-Maxillofacial Surgery , Volume 48, Issue 6, June 2020, Pages 548-554

“No correlation was found between facial and cranial asymmetry.”
「顔面と頭蓋の非対称性の間に相関関係は見つかりませんでした」

長く斜頭症の矯正に携わっていますと、ご両親が感じているお子さんの頭の形と医療機関の診断結果に大きなズレが生じる事が少なくないと感じています。
私のところの調査では3割ほどのご家庭でこのようなズレを感じているようです。
実際に見た目でレベル3以上はある、と感じても医療機関の診断結果はレベル2でヘルメット治療の適応ではないと言われヘルメット療法を断念して私のところに来るケースも多いです。
何故、こういった結果が引き起こされてしまうのかというと、親御さんは顔の左右差というものも見て判断するのに対して医療機関の診断は“Cranial Vault Asymmetry Index (頭蓋非対称性インデックス)“というものを用いており、これは顔面の非対称性を考慮していないからです。

私は90年代から小顔矯正というものを手掛けていますが、その後しばらくして斜頭症の矯正を行っていました。
その当時から頭蓋骨の非対称性は顔面の非対称性と密接な関係を持つ事に気が付いておりこれらを融合して施術を行なってきました。
「べびきゅあ」にお越しの方はご存知かと思いますが、頭蓋の左右差だけでなく顔面の非対称性を含めての説明を行うようにしているのです。

さて、この論文では顔の左右差があっても必ずしも頭蓋の非対称性とリンクするものではないと結論付けています。
念のため、ですが頭蓋の非対称性を矯正することで顔面の非対称性が改善されるという論文は既に発表済みですから論文全体を読めば分かりますが、頭蓋のインデックスと顔面のインデックスに関係ないという主旨ではありません。
ヘルメット療法だけで顔面の非対称性が改善されるものではないのですが、例えレベル2の斜頭度であっても斜頭症の矯正が顔面の非対称性に良い影響を与えるのは言うまでもないのです。
次いでですので、ここで顔面の非対称性の矯正について書かせて頂きますが、乳児だけでなく3歳未満のお子さんの顔面の矯正は行ってはいけません。
何故なら、この時期に顔面の矯正を受けると大人になるまでに顎関節の変形を引き起こすリスクが高いからです。
それなので顔の左右差が気になる場合は、最初は頭蓋変形の矯正を受け3歳以降に顔面矯正を受ける事をお勧めしているのです。

脱線しましたが、親御さんは顔面の非対称性も含めてお子さんの斜頭を考えているが、医療機関では頭蓋の非対称性のみで判断している事によりズレが生じており、斜頭症を診断するにはCVAIは不十分なインデックスだと言えそうです。
尚、顔面と頭蓋両方の非対称性を考えるのは3Dインデックス(3DAI)と言うものを用いますが、2020年時点、日本国内では「べびきゅあ」のみが用いています。ですが2025年には日本でも主流の考え方になりそうです。


⑧ 斜頭症児の認知機能低下をモニタリング?

“Do Infant Motor Skills Mediate the Association Between Positional Plagiocephaly/Brachycephaly and Cognition in School-Aged Children?“
Physical Therapy, pzaa21,18 December 2020

“Monitoring motor development and providing intervention as needed may help offset associated developmental concerns for children with PPB.”
「運動発達を監視し、必要に応じて介入を提供することは、PPBの子供たちに関連する発達上の懸念を相殺するのに役立つかもしれません。」

斜頭症や短頭症のお子さんというのは認知機能の低下を引き起こすリスクが高くなる。
これは過去にもブログなどで紹介させて頂いたものですが、それではその認知機能が低下しているのが発露するまで何もその兆候はないのでしょうか?
この論文では運動機能の発達度合いが認知機能の低下を引き起こしているかについて関連しているとしています。
実際に寝返りが遅い、歩行が遅い、片足立ちができないなどと言った発達上の問題を呈する斜頭症のお子さんは少なくありません。
そういった運動発達面をモニタリングしていくことによって認知機能の低下が引き起こされているかの判断に役に立つとしています。
あまり神経質にならなくても良いと思いますが、斜頭症の矯正を受ける際には(ヘルメット、手技療法ともに)発達チェックを行うようにしたいものですね。
「べびきゅあ」では90年代より発達チェックを行っていますのでご安心ください。


⑨ 母乳育児が斜頭症の発生を減らす

“Delayed Motor Development and Infant Obesity as Risk Factors for Severe Deformational Plagiocephaly: A Matched Case?Control Study“
Front. Pediatr., 11 November 2020

“In conclusion, this study confirms that DP risk is positively associated with bottle-only feeding, infrequent tummy time, and delayed development of motor milestones. Notably, this study demonstrates infant obesity as a new risk factor for DP. Our findings suggest that obesity should be identified early and managed comprehensively in infants with DP.”
「結論として、この研究は、変形性斜頭症は母乳なしで哺乳瓶のみの育児、タミータイムが少ない、そして運動機能発達の遅れと正の関連があることを確認しています~」

2020年から韓国は斜頭症の論文が多数発表されています。
その中には今まで論じられてこなかった様な内容も少なくなく、育児において参考になるものも多々あります。
この論文では母乳育児と斜頭症の関連性について恐らく初めて言及されたと思われる論文です。他にも重度の斜頭症は肥満と紐づくという事も書かれていました。
哺乳瓶と母乳では赤ちゃんの姿勢が大きく異なることは以前より知られており、それが頭の形に影響を与えているのだと推測されます。
また、ミルクのみの育児は母乳よりも体重が増加しやすい傾向にあり、体重の過多は斜頭症を誘発することも過去御研究で分かっていますので、斜頭症と母乳育児が関連づくのも納得できます。
そう考えると、日本古来の育児法は短頭傾向を作るかもしれませんが斜頭症を減らす多くのヒントが隠されているかもしれません。

⑩ 斜頭症は過去の文明から存在していた

“NEW WORLD CRANIAL DEFORMATION PRACTICES: HISTORICAL IMPLICATIONS FOR PATHOPHYSIOLOGY OF COGNITIVE IMPAIRMENT IN DEFORMATIONAL PLAGIOCEPHALY”
Neurosurgery, Volume 60, Issue 6, June 2007, Pages 1137?1147,

“The anthropological record and literature attest to the presence of much more severe forms of deformation than that seen as a result of contemporary infant positioning.”
「人類学的記録と文献は、現代の乳児のポジショニングの結果として見られるものよりもはるかに深刻な形態の変形の存在を証明しています。」

この論文は今まで紹介してきたものと少し趣きが異なり、現代だけではなく過去の文明における斜頭症の発生について論じ、また、斜頭症によって引き起こされる認知障害(原文では認知的副作用)の証拠を調べようというものです。
過去には意図的に斜頭症を形成してきたオルメカ文明やマヤ文明であっても社会に悪影響を及ぼしていたという明確な証拠はなかったようですが、自然人類学や現代発達文学という視点で見るとそうではなく、斜頭症というのは認知というものに対してそれ相当の悪影響を及ぼしていたようです。
何が言いたいのかよいうと、過去において斜頭症というのは社会全体として見た場合は小さな変数とみなされていた(問題とされていなかった)かも知れませんが、現代と同じように斜頭症が一定数発生している状況は個人に与える影響は小さくなかったと考えられるようです。
ただ、現代における斜頭症の発生率は私が調べ得る範囲において最も高い時代と言え、既に小学生における発達障害児増加が問題になっているという点で人類有史最悪の状況と言えるかも知れません。

⑪ 斜頭症は生後6か月を過ぎると自然に改善するのは難しくなる

“The course of positional cranial deformation from 3 to 12 months of age and associated risk factors: a follow-up with 3D imaging“
European Journal of Pediatrics volume 175, pages1893?1903(2016)

“Limited neck range of motion and infant positional preference increase the risk of deformational plagiocephaly during the first months of life.”
「首の可動域制限と乳児の向き癖によって生後1か月の間に変形性斜頭症のリスクが高まります。」

“The spontaneous rate of correction for cranial asymmetry decreases after 6 months of age, also in relation to the rate of head growth.”
「頭蓋の非対称性の自発的な矯正率は、頭の成長率との関係も相まって生後6か月を過ぎると減少します。」

後天的な斜頭症などは生後1か月までに形成され生後6か月を過ぎると自然に改善する可能性が低い事を示しています。
多くの小児科医、特に保健師は斜頭症は成長とともに改善すると主張する方が多いのですがそれが正しい指導ではない事を示しています。
一部のヘルメット療法を提供する医療機関も生後6か月までを治療適応期間としている所もあり、古い慣習で医学的根拠の乏しい指導を受けると治療を受ける機会を失わせることになりかねません。
レベル3を超える頭蓋骨の変形は基本自然に良くなることはないので、子供に接する仕事をしている、特に医療関係者は斜頭症などの相談を受けるのであれば正しい知識を以て相談に当たって欲しいと切に願うばかりです。

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